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怨讐の扉 5
2013-11-13 Wed 15:57
フィクションであり、実在する法人、個人とは何等関係有りません。
 阪急電鉄小林駅から十分ほど歩くと瀟洒な住宅街になる。中堅デベロッパーの六甲東不動産が開発した新興住宅地の一角に白氷銀行社宅街がある。厳密には一戸建ての個人住宅であり社宅ではないのだが、白氷銀行が融資した見返りに一区画の宅地が割り当てられたので、事実上格安の一戸建て社宅である。
 三十件ほど並ぶ一角はすべて白氷銀行員の住居となり、定年後は職位の上下に関係なく近所付き合いをしなければいけないのだが、どうしても格差が大きくなるとすんなりとはいかない。
 課長から支店長まで住んでいるので収入差は倍ほど相違する。教育費の差が子供達の進学にも影響しており、支店長の子息は赤門大に進学したが、課長の子息は同命大だった。遺伝の影響もあるが学力は教育費に比例するというデータがある。二人の子女を国立大に進学させた支店長夫人は天狗になり自慢に走る。他夫人達は聞きたくないので出来るだけ顔を合わさないようにする。
 誰が言い出すのではなく自然の摂理でそうなる。下の者から流れを変えることは不可能であり、支店長夫妻は定年後も我が世の春を謳歌し、街の主として威光を放っていた。
 中浦楠田から聞いた話により全焼した家屋を探していた。コンビニを曲がってすぐの更地が庵倉義鷹の家跡である。百五十坪程の敷地があり、焼失以前は豪奢な弐階建て和風家屋が構えていた。普段は老夫婦のみで、年に数回子供たちが孫を連れて遊びに来る程度であった。
 深夜から未明にかけて火災が発生し庵倉と君枝夫人が逃げ遅れた。台所からの失火原因とされているが不審な点も多く、周辺を聞き込んだが有力な目撃情報はない。近所で顔見知りなら協力があって当然なのだが、住民達はあまり多くを語ろうとしなかった。庵倉は昔から小言が多く周辺から敬遠されていた。
 元支店長なのでこの一角では筆頭になることを鼻に掛け、日常生活の在り方について縷々指導する。ゴミの出し方や布団の敲く音、夜道の歩き方や打ち水の掛け方まで口出しするので、近所からは『銀行員の恥』と呼ばれる有様だった。
 在職中は低身長を誤魔化すためにシークレットシューズで通勤し、靴を脱ぐ座敷には行かない徹底ぶりであった。庵倉家は藤原氏の末裔で、一族は上場企業重役や知事、医師、大学教授等、華々しく政財界で活躍している。地方大学から白氷銀行に入行し支店長に昇進、白氷三央クレジット常務を経て白氷オートシステム社長を歴任しリタイヤとなる。
 経歴は秀麗だが評判は頗る悪い。近隣住民以外からも不評で、床屋では髪が2ミリ長いと云ってやり直させたり、競馬場のアナウンスが五月蠅いのでレースを中止しろと要求したり、コンビニの照明が眩しいから消せと云ったり、駐車が悪いとタイヤを蹴ったり、方々で悪態をついている。
 必然的にトラブルになり警察沙汰になったこともある。庵倉はヤンキーな若者に胸座を掴まれても怯まないので、周辺の人たちが大事にならない内に通報した。怪我はなかったが宿怨を残している。
 度胸のある迷惑老人だが通学路の旗振りは毎日励行している。「おはよう」「雨で滑るよ」「車に気を付けて」等々、生徒たちへの挨拶も忘れず、小学生には機嫌良く愛想を振りまいていた。
 梅雨時の鬱陶しい朝、小学校に向かった長男を交通事故で亡くしているので、悲劇は繰り返して欲しくない。雷雨でも雨合羽を着て旗を振り、近隣の子供達に優しく接するようにしていた。
 人格者の一面もあるのだが、多くの住民から敵視されているので単なる不審火ではなく怨恨も充分に考えられる。近隣商店ではモンスタークレーマーとして扱われており、いつ報復を受けてもおかしくない。
 楠田の話では、白氷三央クレジット時代に職権乱用を繰り返し、人権侵害、左遷、パワハラ、等々で多くの者が泣かされた。プライドは人一倍高いので献上物は高級品しか受領せず、つまらない物品には嫌味の書状を付けて返品することもあった。
 仕事の優劣は判別難だが献上品の差は容易に判断できる。人事は庵倉や武川が主導で恣意的に行われ、反逆者や安物を送った者は徹底的に左遷する。メロンが腐っていたと難癖を付け、将来有望な人材を僻地に飛ばしたこともあった。身障者は無能と公言し、公衆の面前で露骨に身体的欠点を指摘する。犯罪行為だが証拠が残らなければ何でもする。不要な社員を連日罵倒し、精神疾患に陥れ、自主退職に追い込んでいくのが生き甲斐だった。
 人格異常が顕著だが出向者にはこういうタイプが少なくない。激務であり支店長に昇進するには多くの敵を作ってきた。悖徳な所行も繰り返しているので行内外から恨みを買っている。
 庵倉の言動を顧みれば退職者が怪しい、リタイヤして七年過ぎており現役が手を出すことは考えられない。あるとすれば不本意な退職を強要された者の仕業であろう。
 放火殺人か、中浦は刑事の直感としてそう思った。小火は仁川地区でも八件発生しているが、園田同様バイクや物置が焦げた程度である。全焼するような火災は庵倉宅だけであり手口が大きく相違する。
 消防の調査では台所からの失火となっているが、火の回りが早いのでガソリンのようなものを撒き散らした可能性もある。事件と事故の双方で捜査を継続中だが大きな進展は見込めない。閑静な住宅街で深夜になれば寝静まるので、何者かが犯行に及んでも目撃されることはなく未解決で終わってしまう。
 インターネットには闇サイトという商売がある。裏稼業を紹介するサイトで誰でも利用できる。恨みのある者がプロに依頼すれば迷宮入りになる公算が高い。目撃情報の乏しい放火犯は未解決に終わるのが実情なのである。
 現住建造物放火罪なら死刑も充分にあり得る。相当な恨みがないと割が合わない。放火殺人なら担当外なので、中浦はどう対処しようかと首を捻っていた。
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