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怨讐の扉 2
2013-11-13 Wed 15:38
フィクションであり、実在する法人、個人とは何等関係有りません。
 白氷カードは大阪に本店を置く白氷銀行の仔会社で、上層部は総て母体行からの出向者が占めている。別名をバンカーパラダイスと呼ばれ、やる気の全くない出向者達が定年まで居座る状態が続いていた。仕事よりも麻雀が優先し退社定刻になると我先に雀荘に駆け込む者ばかりで、居残る次長以下のプロパーに業務全般を任せていた。稀に時間外に難題が発生すると、行き付けの雀荘にいる上司に報告するのがお決まりのパターンだった。
 出向者は評価されない時代だったので真面目に働こうとしない。復職することがない片道切符であり、年収が減少するだけの職場ではモチベーションも下がる。どんなに繁忙時でもプロパーに任せ定時退社をしていた。
 プロパーは出向者同様に適当にサボっている者と、懸命に働く者に二分された。若年層は安月給でも一所懸命に働くのだが、年嵩になるにつれサボり癖が付く傾向にある。真面目な者には大量の仕事が流れ終電まで残業するが、サボっている者は適度に切り上げ帰宅する。そんな状況が長く続いていても、月給や賞与は年功序列で決まっている。古参社員が九時から五時まで行方不明状態が続いていても、他者と遅れることなく昇進する。多くの者が不満を抱いているのだが人事部は動かない。正直者が莫迦を見る社風であった。
 亀梨善吉人事部長は波風を立てたくなかった。古参プロパーは悪条件で採用した転職者ばかりで、中にはチンピラ同然の強面がおり、怒らせると職場内で喚き散らすことも珍しくなかった。勢い余って重要書類やキャビネを投げ飛ばしたこともある。制止しようとすると激昂し、拳で殴られた部長もいた。
 敬虔なクリスチャンの亀梨は安息の日々を送ることだけを考えていた。主な出向理由は胃潰瘍で入院したことだ。『休まず、遅れず、仕事せず』が銀行員のモットーであり欠落すればポイ捨てである。酒好きの亀梨は体調管理が出来なかった。
 定年まであと僅か、関連会社で身体を張って頑張る理由もないので少々のことは看過していた。暴力沙汰の報告を受けても何もしない。問題は先送りして後任者に引き継ごうと考えていた。
 出向者の背中を観て育ったプロパーにも十人十色の所思があり、頑張って部長職を目指す者もいれば、無理をして身体を壊したらバツが付くと思考する者もいる。楠田は入社当初から平均的な仕事をこなしバツが付かないように心掛けていた。
 可もなく不可もなくだが、当時の白氷カードは小体企業で優良な人材を集められる状態ではなかった。従業員は二百名足らず、資本金一億円、売上千億円、利益七千万円であり、当たり前の事ができない社員ばかりでトラブルが頻発し、上司は顧客に連日謝罪廻りだった。稀に土下座をさせられた者もいた。
 そのような状況下では普通の仕事ができれば充分な戦力であり優秀な人材として扱われた。入社後数年間は常にエース的存在だったが、好景気が続き業容が拡大したことで優秀な人材を確保できる規模になると一変した。
 東京支社がダブル本社に格上げされ、早智大、慶明大、青習大といった一流校から大量に採用されるようになった。稀に最高学府の国立赤門大から入社する者もいた。大阪本社にも古都大、浪花大、尼神大といった国立大から優秀な学生が多く来るようになった。
 俊才な人材が増えると、高卒や二流大出身者揃いの旧社員ではレベルが大きく乖離し頭脳では全く歯が立たなくなる。日常会話の多くが横文字になり語学力の疎い中高年には頭痛の種となり、楠田も部長代理になる頃には部下の大半が一流校出身者で肩身の狭い思いをした。阪東大は関西では有名だが所詮ローカルレベルであり、関東人からは冷視線を浴びるだけの存在だった。
 景気が傾いた頃、白氷銀行と三央銀行との合併に伴い、白氷カードも三央ファイナンスと合併し白氷三央クレジット(株)となる。資本金三百億円、売上五兆円、利益二百億円に業容拡大していた。必然的に母体行からH系、S系出向者が大量に流入し組織は大混乱した。
 人事権が総ての銀行業界でありポスト争いが激化し、部長や副部長職が濫立した。部付部長、調査役、推進役といった中途半端な役職が増え、水と油のH系、S系が同部内で発令すると、スタンドプレーが目立ち指示系統は朝令暮改が続いた。社員達は誰を信じればいいのか解らず不信感が募り、モチベーションは大きく失っていた。
 白氷銀行と三央銀行は財閥系同士であり合併前から融和は不可能と云われていたが、経営基盤の充実を最優先した財務省主導の結果だった。業界内では比較的良好な関係であったが、いざ一緒になると、H系、S系と別称され行内は分断された。H系主導で業務が統一されたのでS系行員は意気消沈した。
 電話帳よりも分厚いマニュアルを見る度に不快感を口にする者も少なくなかった。合併比率が四対六なのでどうしても不公平感が残る。サラリーマンの悲哀だけでは割り切れないものがあり銀行本体は混乱した。それに伴い経営状態が良好な関係会社も大混乱に巻き込まれた。
 プロパーにとってはポストが消滅すると死活問題になる。次長の上は副部長だが○○役が濫立すると、どのポジションが上なのかわからなくなる。銀行時代の職位を継承するので個人差が生じる。副部長と○○役は同等だが相手次第でランクが変動する。宴会の座席になると細心の注意が必要になる。少しでも間違えると怒声が響く、挨拶の順番相違をすれば、蹴飛ばされ土下座させられた幹事もいた。
 今日は順風満帆な宴会だがこの先何が起きるかわからない。随分おかしな時代になった。あの頃は良かったと楠田は嘆息した。
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